ネ言 negen

たいしたことは書きません

ゲゲゲのゲ

たまには真面目なエントリでも。

感動詞「げっ」は、管見の限り、誰も扱っていないし*1、これからもこんなどうでもいいものを対象にする人はいないと思うので、分析の方向性をメモ的に模索しておくことにする。

すぐに気付くキーワードとして「予想外」が考えられる。

    (1)(試験でヤマをかけた問題が出なくて) げっ!
    (2)(カーテンを開けたら雪が積もっていて) げっ!


よーするに、予想していた事態と異なる事態が眼前に出現した場合に「げっ」が使われるのだ。難しく言うと、activeな情報がsemiactiveな情報とかみ合わない状態で「げっ」が発せられる、となる。

ここで注意しなければならないのは、「予想外」という概念の規定である。予想から外れていたら、なんでも「げっ」が使えるかというと、そうではなく、


 (3)(道ばたで恋人とばったり会って) げっ!


(3)の発話が成立するのは、発話者に後ろめたい、後ろ暗い、背徳的、「うわ、やべどうしよう、落ち着け、言い訳を考えるんだ」的な背景が存在する場合のみである。別に浮気とかしてなくて、潔白で、一途で、ただ単に偶然会ったような状況であれば、「げっ!」は明らかに不自然である。

ここから、「予想外」の事態には「マイナス方向」という条件が付加される。この記述は、


 (4)(自信がなかった試験が100点で)??げっ!


「プラス方向」の「予想外」では、不自然になってしまうことが証左となる。


また、あくまで「予想外」であって、「想定外」ではない点も考慮しないといけない。


 (5)(道を歩いていたら車が突っ込んできて)??げっ!


これは微妙だが、ちょっと不自然になる。「車が突っ込む」という事態は、予想可能範囲の埒外であるといえる。予想可能範囲を超えた、思いもしなかった事態を「想定外」と呼んでおく。二者の違いは、

    ・「予想外」:あり得る事態の内で、もっとも可能性の低い(と話し手が判断している)事態
    ・「想定外」:あり得る事態の外で、そもそも可能性ゼロである(と話し手が判断している)事態


こんな風になるのかな。つまり、「予想外」はsemiactive領域で規定されるが、「想定外」はinactive領域で規定されるのである。この違いを明確にしておかないと、(1)と(5)の差異がおそらくは説明できない。

うーん、車じゃなくて、もっと分かりやすい例がないかな……。

    (6)(あなたは出会い系で連絡を取った人とリアルで会うことになりました。
      待ち合わせの場所に行ってみると、そこにいたのは……)
      a 同性の人でした   → げっ!
      b 親でした       → ?げっ!
      c 有名アイドルでした →??げっ!
      d ガチャピンでした   →??げっ!

うわー、こんなのありえねーw つか、そんなに差が出るか?

    (7)(麦茶だと思って飲んだら……)
      a めんつゆでした →??げっ!
      b コーラでした  →??げっ!
      c ほうじ茶でした →??げっ!
      d コロッケでした →??げっ!

やべ、ネタくさくなってきたw*2 そもそも口に含んでる状態では発話できんぞw

    (8)(財布には5000円入ってるはずです。開けてみると……)
      a 1000円しかありません  → げっ!
      b 30000円も入ってます  → ?げっ!
      c 5000ペソになってました →??げっ!

あー、これが分かりやすいかな。でも、30000円入ってる事態を「予想外」とするか「想定外」とするか、微妙なところだねえ。それ以前に、こんな例を正式な論文では載せられませんがな。

「げっ」は「想定外」な事態とは親和性が低いのである。そして、その「想定外」に対応する感動詞は、たぶん「は?」だと思う。そこら辺でうまいこと棲み分けがなされているのではないか。となると、他の感動詞との比較も、「げっ」を考えるにあたっては必須ということになる。「え?」とか「わっ」とかね。

さらには、長音形の「げえっ」も「げっ」とは微妙に意味が異なる。5000ペソになってたとして「げえっ」は許容度が高いのではないかと思われる。


……と、ここまで考えてみて、感動詞「げっ」に関する考察は意外と手間がかかることが分かりました。どうしよう。

*1:森山(1996)でやってた気がしたが、読み返してみると、感動詞分類一覧に「げっ」はあるが、分析はやっていない。

*2:俺の場合、論を組み立てる際には、こういったヘンな例からスタートするパターンが非常に多い。感動詞ではヘンな例のほうが差異が明確になりやすいから、というのはこじつけで、単に例を作ってて楽しいから。