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ツンデレ言語論(6)

えらく間があいてしまった……。
 ツンデレ言語論(1)ツンデレ言語論(2)ツンデレ言語論(3)ツンデレ言語論(4)ツンデレ言語論(5)
というわけで、続きを書いてみます。今回は、超難問と目される、ツンデレと終助詞の関係について。


◆導入
典型的なツンデレ発話には、終助詞、特に「ね」が頻出するといえます。

    (1) べ、別にあんたのことなんか何とも思ってないんだからねっ!
    (2) し、心配なんてしてないんだからね! (釘宮(2007))
    (3) ひ…ひざまくらぁ? い、一分だけだからねっ (釘宮(2007))
    (4) ぎ、ぎ、義理チョコだからね。 (釘宮(2008))
    (5) これは、あんたのために着てきたわけじゃないんだからね! (釘宮(2008))

貴重な研究資料である釘宮(2007)、釘宮(2008)でも、(2)〜(5)の例のような「ね」の使用が見られます。ちなみに、数えてみると、下の表のようになります。


表 釘宮(2007,2008)における「ね」の使用数*1
ツンデレカルタツンデレ百人一首
「ね」11例40例


ん? 思ったほど多くありませんな。とはいえ、やはり、ツンデレと終助詞「ね」はかなり相性がいいと言えそうです。(1)〜(5)なんかは萌えまくりですね、みなさん。

ここで考えなければならないのは、この相性の良さです。何故、「ね」とツンデレはマッチするのか。この疑問を、何らかの形で言語学的に説明しなければなりません。


◆前提
まず、終助詞「ね」の基本を押さえておきましょう。

誤謬を恐れずに、過去100数十年の「ね」の研究成果をものすごーくおおざっぱにまとめると、

    (6) 終助詞「ね」の働き : 話し相手との“つながり”を形作る

こんな感じになるのではないかと思います*2。そして、その“つながり方”にはいくつかの種類があって、一般に、

    (7) 確認要求 : 相手に確認を求める
    (8) 同意要求 : 相手に同意を求める
    (9) 同意表明 : 相手に同意することを示す

この三種類になっています。この中から、ツンデレ発話の「ね」はどれに当てはまるのかというと、ごく普通に考えると、同意要求になるでしょうか。

同意要求とは、例えば、

    (10)(スイーツを食している二人)
      A これ、すごくおいしいね。
      B うん。

この会話におけるAの「ね」のような使い方です。「おいしい」という自分の感情を話し相手であるBにも同意してもらいたい、という気持ちを表しています。

前にも見たとおり、ツンデレ発話では隠れた裏の意味が存在しますので、直接的な同意の要求とは言えませんが、「心配してない → ほんとは心配してる → それに気付いて!そして同意して!」といった流れで考えると、同意要求で合っていると思います。まあ、要求というよりも、相手への一方的な投げかけ、あるいは自身の精神状態の確認って感じのほうが強いかもしれませんね。


野田(2002)では、「ね」における“つながり方”のもう一種類として、

    (11) 自己確認 : 自身の知識や記憶を確認する

なんてものを挙げています*3。もしかしたら、こっちの側面がかなり色濃くなっていそうです。

微妙に位置付けがあやふやですが、とにかく、ツンデレ発話の「ね」ってのは、(隠れた)自分の想いを相手に伝達するために用いられていることが分かります。そして、自己確認に近い働きも持っていると仮定すると、単なる相手への要求ではなく、“自身の知識の再確認”といった側面も含まれているのではないか、と考えることもできます。


異なった見方でアプローチしてみると、金水・田窪(1998)が終助詞「ね」の意味として提示した、

    (12) 計算中であることの標示

っていうものがしっくりきます。かなり抽象化した形での「ね」の働きですが、ツンデレ発話の表の意味と裏の意味とがせめぎ合っている状態をうまく説明できます。

あなたに対する想いが頭の中を駆け巡っています。でも、それは表に出しちゃいけない。あーどーしよー」という、端から見れば萌え萌えな状態が、まさに頭の中で計算中(処理中)な状態なのです。


つまり、「ね」は、その本質的な働きに基づき、ツンデレ属性の表出に一役買っていることが分かるのです。

おー、意外と簡単にまとまったまとまった。パチパチパチ……。


……しかし、話はここで終わりません。むしろここからが始まりなのです。



次回に続きます。



参考文献
釘宮理恵(2007) 「ツンデレカルタ」
釘宮理恵(2008) 「ツンデレ百人一首
野田春美(2002) 「終助詞の機能」『新日本語文法選書4 モダリティ』くろしお出版
金水敏・田窪行則(1998) 「談話管理理論に基づく「よ」「ね」「よね」の研究」『音声による人間と機械の対話』オーム社

*1:基本的にツンデレっぽい発話に現れた「ね」をカウントしています。百人一首のほうは一首のセリフが複数の発話によって構成されていますので、のべ語数となります。また、「わね」「よね」の「ね」もカウントしました。これらをカウントするのはちょっと微妙な気もしますが。

*2:異論反論オブジェクションは受け付けません。あくまで分かりやすさ優先ってことでお願いします>研究者各位。

*3:“自己”の確認なので、厳密に言うと、相手との“つながり”ではないのですね。ここら辺は終助詞研究においてもかなり難しい問題を孕んでいますので、興味のある方は調べてみてください。