ネ言 negen

たいしたことは書きません

難解な日本語3

読み終わんねー、『リアル鬼ごっこ』。ツッコミどころが多すぎて、読むのに時間がかかる。その分ネタには困らないのでいいのだが。あ、ネタばれとか考えずに書いていきます。まあ、ばれて困るようなネタなんてない作品だけど。
ツッコミ一つ目。

 むしろ二つ年下の弟(王子)の方が国王に向いていると、陰では噂されていた。
 (『リアル鬼ごっこ』(幻冬舎文庫), p.13)

えーと、「王子」っつーのは普通、王様の息子に付く敬称だと思うのですが(→エキサイト国語辞典:王子)。「王子様」だったら、そこまで厳密な敬称ではなさそう。違う意味でヤバいが(笑。

二つ目。キャラ設定に関して。王様のセリフをいくつか抜き出してみた。

「そうか……それでは我が一族の姓も存じておるな」
 (同, p.16)

「これはどうじゃ?」
 (同, p.20)

「ん? どうした? この考えはよいと思わぬか?」
 (同, p.28)

この言葉遣いからイメージされる王様はこんな感じだろう(←少し違う)。「ておる」や「じゃ」や「ぬ」なんかを用いると、その発話者の人物像がある程度特定される。この場合は、老人がしゃべってるというイメージが喚起される。このような特定の言葉遣いを「役割語」と呼ぶ*1

たしかに一般的な王様のイメージはこのような言葉遣いだ。しかし、思い出してほしい。この作品の王様は「弱冠二十一歳」なのだ。21の若造がこんなしゃべり方しねーよ。21歳って設定忘れてやしないか? 甘やかされて育ったわがままな王様だとしても、「若い」王様ならもっと違う言葉遣いをするはず。

100万歩譲って、王様という権力を持った属性を強調したかったとしよう。でも、このしゃべり方、<じい>とかぶってんだよね*2

「存じております。私どももそれは同じでございます」
 (同, p.17)

「しかし、王様……それは仕方のないことですぞ。今さらどうすることもできぬ事実……」
 (同, p.18)

このあまりにもステレオタイプなキャラ設定には苦笑を禁じ得ません。

ちなみに、金水先生はこれらの言葉遣いを「老人語(あるいは博士語)」としてまとめているが、「丁寧形+終助詞「ぞ」」についてはかなりイメージが狭くなる気がする。年齢は一番上なんだけど、権力者に仕える側近みたいなスタンスの人の言葉遣いっぽいよね。俺は勝手に、この「ですぞ」「ますぞ」の類を「セバスチャン語(あるいは執事語)」と呼んでいる。つか、今、思いついた。

 「これ! 若、おイタが過ぎますぞ!」

もう、セバスチャンしか頭に浮かばねえ。

で、だ。この王様は、年齢設定と言葉遣いのギャップが大きすぎて、人物像が描けないんだよね。もともとキャラクター描写に乏しい上に*3、こんなんじゃ、物語に引き込むのは難しいよ。

三つ目。

「皆の者! 国中の佐藤という名字を減らす方法が何かないか?」
 (同, p.18)

改姓させれば? 絶大な権力持ってんだし。そうすれば、この小説も20ページくらいで終わったのにね*4

*1:金水敏(2000)「役割語探求の提案」(佐藤喜代治(編)『国語論究第8集 国語史の新視点』明治書院)、金水敏(2003)『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店, isbn:400006827X)を参照。

*2:「じい」は王様の側近。

*3:乏しいのはキャラ描写だけじゃないが……。

*4:物語としては、この一言をきっかけに、佐藤狩り、つまりリアル鬼ごっこが始まるわけである。