ネ言 negen

たいしたことは書きません

真・難解な日本語2

突然、思い出したように書いてみる。あ、いや、違う。忘れてたわけじゃないよ(爆。

リアル鬼ごっこ』の変な日本語をあげつらってみるこのコーナー。今日のネタは「重複表現」だ。重複表現ってのは、「頭の頭痛が痛い」とか「馬から落馬して落ちた」とか、そういう奴。同じような意味の語を重ねてしまって、なんか違和感が生じてしまう表現のことだ。*1

リアル鬼ごっこ』にはこの重複表現が異様に多い。呆れるぐらい多い。まずは、「頭痛が痛い」系の、全く同じ語が重なっている表現を挙げてみよう。

「二十三時間の間」 (『リアル鬼ごっこ』(文芸社), p.25)
「全国全ての佐藤データ」 (同, p.56)
「お腹も満腹」 (同, p.87)
「上を見上げて」 (同, p.88)
「一時間の間」 (同, p.88)
「一分間の間」 (同, p.96)
「近所に住む住民達の間では」 (同, p.109)
「座布団の上に正座で座った」 (同, p.116)
「一つも返事が返って来ない」 (同, p.197)
「このままでは気まずい雰囲気のまま」 (同, p.213)
「十四年間の間」 (同, p.214)
「十四年間の間」 (同, p.218
「翼の顔から笑顔も窺え」 (同, p.256)
「日差しの差し込む場所」 (同, p.260)
「この一枚の写真一つとなってしまった」 (同, p.292)
「六日間の間」 (同, p.294)
「我が国王が壇上の上に姿を現しました」 (同, p.323)
「数千人の人に囲まれる」 (同, p.324)

特に時間表現に多用されているのが分かる。「〜間の間」って書いてて気づかないのかねえ。

「近所に住む住民」も「近所の住民」だし、「正座で座った」も「正座した」だろう。「翼の顔から笑顔も窺え」も「翼から笑顔も窺え」、「壇上の上」なんてのはまさに“頭痛が痛い”。ただ、「全国全て」「返事が返る」「日差しの差し込む」なんてのはかなり許容される言い回しかなあ。微妙なところ。

「このままでは〜のまま」は実質、意味は重なっていない。けど、「まま」が繰り返し出てしまうので、何か表現を変える工夫が必要だ。「一枚の写真一つ」も同様。「一枚の写真だけ」と変えればよい。つーか、ここは文章表現講座じゃねーっつーの!!

さらに見ていこう。次は、全く同じ語ではないが、意味的に重複している表現。

「もの凄く機嫌が悪く、不機嫌な顔をして」 (同, p.14)
「騒々しく騒いでいる」 (同, p.33)
「名実共に実力を上げていき」 (同, p.36)
「罪として重罪が下されるのだ」 (同, p.51)
「正午十二時に予定されている」 (同, p.51)
「いかにも挙動不審な行動で」 (同, p.64)
「町中の人たち全て」 (同, p.93)
「激しい息づかいで呼吸をしている」 (同, p.138)
「上に上がろうと翼は踏ん張った。が、なかなか上には上がれない」 (同, p.176)
「洋は後ろを振り向いて」 (同, p.177)
「暗闇の中からうっすらと人影がかすかに現れた」 (同, p.224)
「さすがに十四年間もだてにこの辺りには住んではいない」 (同, p.232)
「息を出すたび白い息が舞っては消えていく」 (同, p.241)
「大声で馬鹿笑いをしだした」 (同, p.253)
「最悪の事態を引き起こす引き金になろうとは」 (同, p.268)
「両腕を下にダランと垂らし」 (同, p.284)
「翼は白いジャージのチャックを多少下に下ろした」 (同, p.327)

「息づかい」=「呼吸」だし、「振り向」くのは「後ろ」以外ない。「正午十二時」は正午がそもそも12時を示すので重複。「名実共に実力を」は「名実」が名声と実力だし。「挙動不審」には「行動」が含まれている。「うっすらと」と「かすかに」は意味がかぶっている。「さすがに」と「だてに」もそう。「馬鹿笑い」には大声という様態が含まれている……。

……もう、全部説明していると日が暮れちまう! そりゃあ、

「距離的にそう遠くなく、近いようだ」 (同, p.126)
「気がつけば、夜が明けて、いつの間にか朝を迎えていた」 (同, p.192)

「遠く」なきゃ「近い」し、「夜が明け」たら「朝」にもなるさ。意味がねー。

ま、「罪として重罪」「息を出すたび白い息が」などは“馬から落馬”系の典型例だけどね。「上に上がる」「下に下ろす」は、たぶん、容認できる表現だろう。

でも、ここら辺まではまだ、「コイツ、語彙すくねー」ってことで目をつぶることができる。しかし、次のような例はもはや笑うしかない。

可能性があるとすれば左右交互に曲がりくねって、鬼をかく乱する方法しか今は可能性がない
 (同, p.265(下線はnegen。以下同))

ダメだこりゃ。これも文レベルでの重複表現の一種として見ると、たっくさん出てくる。

「王様はその意見についてそれぞれの顔を見ながら、「どうじゃ? この意見は良いと思わぬか?」と意見を尋ねた」
 (同, p.19)
「王国宮殿の周りにマスコミや不満を感じた佐藤さんは誰一人、宮殿に押しかけなかった」
 (同, p.33)
翼には素質があると見込んで翼をスカウトした」
 (同, p.35)
今や短距離走では自分が一番早い事も、そんな試合の事も、走る喜びすら今の翼は忘れていた」
 (同, p.41)
「王国中の鬼達は既に待機場所で時が訪れるのを待っているに違いない。鬼達だってそうだ」
 (同, p.57)
「頭に鬼の事がしつこい油汚れの様にこびりつき、離れないままいつしか翼は表通りから離れ、今度は自宅から遠く離れたこれまたごく普通の見慣れた住宅街を彷徨うかの様にキョロキョロさせ、いつ出てくるかも分からない鬼におどおどしていた翼なのだが、ふと一つの心配事が頭をチラリとかすめた」
 (同, p.62)
今は時間を有効に使わなければならない。とにかく輝彦が起きるのを今は待つしかなかった」
 (同, p.78)
心で強く言い聞かせたものの、やはり心の何処かでは弱気になっている事も分かっていた」
 (同, p.83)
「それから翼は全ての経緯、事情を全て洋に話した」
 (同, p.144)
王国各地で窃盗、強盗、放火、誘拐、殺人という凶悪犯罪が王国中を支配していった」
 (同, p.148)
「町中の灯りが煌々と輝いている。今の道を真っ直ぐ走り抜けると灯りが煌々と輝いている道路に出る様だ」
 (同, p.181)
「翼の耳にこの日の終わりを告げる合図が耳に届いていた」
 (同, p.191)
「翼の疲労は既にピークに達しており、疲労困憊になりながらもようやく」
 (同, p.196)
涙ながらにそう言うと、
 「これ以上……これ以上私はあんな姿の愛をみたくはない」
 彼女は涙を浮かべて訴えた」
 (同, p.203)
「そう言うと愛は翼の肩に手を置いてゆっくりと地面に座らせた。翼もガクッと地面に座り込んだ
 (同, p.235)
「部屋の中に佐藤がいない事に気づいた鬼は、非常口を発見するとすぐさま鬼は非常口に駆け寄ったと思われる」
 (同, p.237)
自分は熱を出している事も全て忘れて今は狂ったように走るだけだった」
 (同, p.238)
「人間がここまで精神的に追い込まれるとここまでの力が出るなんて」
 (同, p.298)
その瞬間、俯きっぱなしの王子は瞬時に顔をハッと上げた」
 (同, p.316)
「翼は俯きながらそう言葉を漏らした。
 「そうだ。何でも私が叶えてやる。さあ、言ってみよ」
 翼は俯きながら頷くと顔を上げた」
 (同, p.326)

一瞬、スルーしてしまいそうな文章もあるが、よーく読んでみると、同じような意味の表現がとにかく嵐のように重なってるのが分かる。文章表現の授業なんかで使いたいぐらいだ。こんな文章は書いてはいけません。

何故、直前に使ったのと同じ言い回しをもう一度用いるのか。短期記憶が極端に少ないんじゃないかと疑ってしまうよ。鳥頭? ここまで重複表現が頻出しちゃうと、もう、

「その驚くべき結果にじいは驚き」 (同, p.314)

俺がビックリだよ。こんな日本語は、

「許そうとしよう」 (同, p.318)

許せねーよ。*2

「もし、ここで捕まってしまえば自分の人生はここで“ジ・エンド”なのだから」
 (同, p.92)

この小説がジ・エンドだよ。終わってる。
小説っつーか作者の日本語は既に終わってるけど、難解な日本語シリーズはまだまだ続くよ。だって、ネタたくさんあるんだもん。せっかく用例調査したネタを使わないのはもったいない。

*1:まあ、「歌を歌う」や「踊りを踊る」なんてのもその類だが、こっちはそんなに違和感がない。重複表現といっても、一律に変なわけではないのだ。逆に「防犯防止」など、重ねて意味が反対になっちゃってるのもある。

*2:普通は「許すとしよう」。意志形の「〜よう」が重なっているからこれも重複表現。