顔文字の構文的位置
この「ネ言」がブログ化する前に書いていたコンテンツがある。顔文字とかカッコ文字とかの諸相を考察するのが目的だったのだが、超遅筆(つーかやる気なし)で全然充実しなかった。その中から一つまとまった文章をコピペしてみるテスト。日付は2002年8月12日となっているので、そこら辺で書いた文章。ネタ的に古くなってる部分もあるが、ご容赦。
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今回はどうでもいい些細なことを考えてみようと思います。
メールや掲示板への書き込みのとき、ふと、文末にキュートな顔文字を添えてみようかしら(はあと)、と思ったとします。その時、あなたは顔文字の後ろに句点(。)を打ちますか? 打ちませんか?
かくいう私もときどき顔文字を乱発した文章を書いたりしますが*1、結構悩むものです。
(1) それじゃあ、お返事待ってます\(^^)/
(1)のような文を書くとすると、顔文字「\(^^)/」の直後に句点を打つべきかどうか迷うんじゃないでしょうか。え? 迷わない? いや、迷うんじゃない? つか迷え。でないと話が進まん。
顔文字を、例えば「?」や「!」のような感情・心情を表すマークと同じものとして考えると*2、「?。」という書き方はないのと一緒で、顔文字の後ろに句点は来ないと考えることができる。でも、何気なく打ってしまうこともある。カッコ閉じで終わる顔文字を使用する場合である。
(2) おー、そうなのか、メモメモ_φ(.. )。
特に不自然ではないよね。
これは、一般的な顔文字の輪郭は丸カッコで構成されているので、いわゆる普通のカッコ書きの規則「カッコ閉じの外側に句点を打つ」が適用されていると考えることができる。
つまり、
(3) 今日も暖かくて過ごしやすいね(^-^)
このような顔文字を使うときは、文末がカッコ閉じで終わっているので、そのさらに外側に句点を打つことになる。
(4) 今日も暖かくて過ごしやすいね(^-^)。
小学校以来の作文技術で染みついたパターンが無意識に適用された結果といえよう。
そして、この作文技術的パターンが拡大解釈されて、カッコ閉じで終わらない顔文字(手が付いているものとか)にも句点を打ってしまう場合がある。
(5) やべえ、失敗しちまったよおおお(ノ゚o゚)ノ。
実際には句点ありも句点なしもどちらも見られるものだけど、けどやはり、バランス的には、句点を打つことで崩れてしまう顔文字もあるので、その辺の使用は臨機応変といったところか。例えば、カッコ閉じを省略する顔文字「(^^;」「(-_-メ」「(^▽^*」なんかは直後に句点が来るとヘンだよねえ。
(6) 今日はとっても寒くて凍えそうです(^^;。 (7) やっほー、うれしいなっと(^▽^*。 (8) 今日はとっても寒くて凍えそうです(^^; (9) やっほー、うれしいなっと(^▽^*
あなたならどちらを使いますか?
また、顔文字が現れる位置は文末だけとは限りません。文中のどこにでも現れます。その場合は読点(、)の使用が問題になってくるけど、句点と同様の拡大解釈が適用されるのではないか。
(10) 今日はもう疲れたので(-_-;)、終わりにします。 (11) やったー、終わったーヽ(´ー`)ノ、さて帰ろうっと。
ま、実際には句読点を直後に打っておかないと文章が読みにくくなるから、ってのも理由の一つなんだろうけどね。
(12) 今日はもう疲れたので(-_-;)終わりにします。 (13) やったー、終わったーヽ(´ー`)ノさて帰ろうっと。
無秩序に顔文字を挿入されると、とても読みにくいですね。特に文の切れ目が判別しにくくなるのは痛い。カッコ閉じ無し顔文字の場合はなおさらです。
(14) どうでもいいことなんですが(^^;結局は気持ちの問題ですね。
では、文頭に顔文字が現れる場合はどうなんでしょう。
(15) (;´Д`)やってらんねーヨ。
これは間に読点を挿入すると非常に違和感が感じられます*3。
(16) (;´Д`)、やってらんねーヨ。
なんか唾吐いてるみたいだね、( ゚з゚)、ペッ ( ゚з゚)、ペッ ( ゚з゚)、ペッ
つまり、顔文字は文や語などのような独立した一つの単位ではないことが分かります。機能的には「?」や「!」などの感嘆符に近いと言えますね。ただ、顔文字のほうが使用位置が自由であるため、ときに句読点を別個打っておかないと、非常に読みにくい(目に悪い)文章になる場合があるのです。
結局は顔文字使用者それぞれの主観的な基準によって書き方は決まってくる、としか言いようがないのです。しかし、そんなテンでバラバラな中にも、ちょっと考えるだけで、いくつかの基準がちょいと複雑に絡み合って存在してるだけ、ということが分かるかと。
最後に携帯メールでの顔文字について少し述べてみましょう。
携帯は表示画面が小さいので、顔文字を使用すると行をまたいで表示されてしまう場合が多々見られます。
これはもはやどうしようもないのかもしれません。機種によって、一行当たりの文字数が3〜13字くらいまでの幅がありますし、ユーザが自由に設定変更できるので、どの位置の顔文字がまたいで表示されるのかなんて誰にも推測することはできません。
ただし、「え〜! せっかくオチャメな顔文字打ったのにぃ〜。プンプン」と思う人もいるかもしれません。つーか、表示の崩れた顔文字ほど醜いものはありませんので、なんとかしてどんな機種でもどんな設定でもきちんと表示されるようにしたいと誰もが思っているに違いありません。
え? 思ってない? ……思えよ、コラ。
常にキレイな顔文字を表示させたいならば、「行頭」に書くしかありません。
一旦改行して、行頭に顔文字を書くのです。これならよっぽど文字数が多い顔文字でない限り、行をまたぐことなしに表示されますよ。あとはそれに合わせて文章を書くだけです(何か本末転倒のような気もするが……)。
今回はココまで━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!!
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さて、いかがでしょうか。
なんとなくではあるけれど、顔文字の文法的な性質って、定延先生が提案している「キャラ助詞」に近いような気がする。キャラ助詞というのは、
(a) これからよろしくちょろ。 (b) 困ったぴょん。
これらの「ちょろ」や「ぴょん」のように、文末に付すことによって発話キャラクターの特定化を促す形式のことを指す。(詳しくは、『ケーススタディ日本語のバラエティ』(amazon:isbn:4273033925)のケース18や、月刊『言語』2005年の「チャレンジコーナー」等を参照。)
このキャラ助詞は終助詞的な振る舞いをするが、終助詞とは異なり、「見た目上の文末」に出現が偏る。つまり、間投助詞的に文節末にも付いたり、倒置文の述語末に付いたりすることはできないのだ。
(c) *今日はちょろ、学校にちょろ、行くちょろ。 (d) *買っちゃったぴょん、例のアレ。
顔文字もまた、上で示したように「見た目上の文末」に偏る。文中や文節末に現れることはあまり無いといっていい。顔文字には形態的な制約(カッコ閉じとか)が影響を与えている可能性があるけれど、機能的な位置付けはかなりキャラ助詞と近いといえそう。
だからなんだ、と思われそうだが、顔文字だって記号の一つだ。そこに何らかの意味機能があってもおかしくない。つか、無いほうがおかしい。だからそれを体系的にいろいろ考えていくと、いろいろと面白いのだ。
*1:いつどこで乱発してるかは、ヒ・ミ・ツ。
*2:「?」や「!」の後ろは、実際のところどうなのでしょうか? 筆者の感覚としては一文字分のスペースを空けるのが普通だと思うのですが。もちろん顔文字でも句読点を打たずにスペースで済ます可能性もありますね。 (例) 萌え〜(*´∇`) 激しく萌え〜(*´∇`)
*3:句読点を打つと違和感を感じるのは、顔文字直後の文が「顔文字のセリフ」として機能しているから、と考えることもできそうです。 (例1) ( ´∀`)<オマエモナー (例2) (・∀・)スンスンスーン♪ ( ゚д゚)ハッ! こういう風にひとまとまりの顔文字として捉えれば、間に句読点は入れられませんね。