まるさんかくしかく
まず、何の文脈も持たないで、次の表記を見てみよう。
(1) ○○社 / ○×社
(2) △△△大学 / △×□大学
どちらかというと、“○○”“△△△”のほうが伏せ字としての効果が高いように思われる。つまり、何らかの理由で固有名を隠していると解釈されやすいのが“○○”“△△△”という表記であるといえるのではないか。非常に微妙な差異だけど。
差なんか無いと言われたらそれまでなので、差があることにして話を進める。
例えば、
(3) ○○社では不正な融資が日常茶飯事だ。
(4) ○×社では不正な融資が日常茶飯事だ。
こういった告発文脈での伏せ字使用として、より自然なのは“○○”ではないだろうか。二つを比較すると、“○○”は隠された特定の固有名の存在が想起され、一方、“○×”はそういった特定性は低く、社名の例示(テンプレート)という意味合いが強く感じ取れる。“○×”は、「こういう感じで文章を書いてください」と説明するときのテンプレート的な文字列*1という解釈が優先され、告発文の伏せ字にはどうもしっくりこない。
もっとも、実例を追ったわけではなく、俺の印象に過ぎないので過信は禁物。
人名も同様のことが言えそう。
(5) ○○ ○子
(6) ○× △子
どちらが伏せ字っぽいか。おそらく(5)のほう。(6)は書類の記入例に見られる「筑波花子」とかのヴァリエーションっぽく感じられる。なので、
(7) ○○○子は全然仕事しないんだよね。クビになんないかな。
(8) ○×△子は全然仕事しないんだよね。クビになんないかな。
このような、匿名掲示板によく見られる中傷的なカキコミ(笑)に合うのは(7)のほうになる。
仮に、“○○”“△△△”を同記号連続、“○×”“△×□”を異記号連続と呼んでおくと、伏せ字は同記号連続、テンプレートは異記号連続という傾向が見えるのではないか。もうちょっと難しい言葉で言うと、同記号連続は「値」を表し、異記号連続は「役割」を表す、となる。
我ながら、超こまかい内省だと思うが、違いはありそう。
さて、市町村名は少し複雑になる。
(9) ○○県○○市○○町
(10) ○○県△△市□□町
(11) ○×県△×市□×町
どれが伏せ字っぽい? おそらく(9)のみが伏せ字解釈が優先され、(10)(11)はテンプレート解釈が優先されるのではないだろうか。
(9)と(11)は同記号と異記号の違いだと説明できる。が、(10)はどうか。県、市、町という小さな単位で見ると同記号連続だが、住所というひとまとまりの情報として捉えると異記号連続になる。
ということは、あるまとまった情報内で異記号が混在すれば、テンプレート解釈になりやすいと考えることができる。
例を挙げておく。
(12) ○○県○○市は役所の対応が悪い。なんとかしろ。
(13) ○○県△△市は役所の対応が悪い。なんとかしろ。
つまり、形態素単位ではなくもう少し広い範囲まで、記号連続が効果を持つのである。
ただ、記号連続が持つ働きはあくまでも傾向差でしかなく、同記号連続がテンプレート解釈を排除する(あるいはその逆)といった厳密なものではない。さらに、実例を調査したら、ここで述べたような傾向が全然なかった、という可能性すらある。そうなったら完全に俺の妄想だな。でも、俺の言語直観が「なんか違う」とささやいているので、なんか違うと思いたい。
固有名については上記のような差異があると思うのだが、数字の伏せ字になると、また話が変わってくる。特に電話番号。
(14) TEL:○○○−○○○−○○○○
(15) TEL:○×△−□×○−○×△□
さあ、どっちが伏せ字? どっちがテンプレート? 電話番号の場合、どちらとも言えないような気がする。逆に、同記号連続のほうがテンプレートっぽくて、異記号連続のほうが伏せ字っぽくなっている気さえする。何故だろう。
なんとなくではあるが、選択肢の多寡が影響してるような。数字は0〜9までの10個から、固有名はかな漢字アルファベット全部から選んで当てはめていかなければならない。そこら辺の処理の単純さ、複雑さという前提知識が記号連続解釈の揺れにつながってんじゃないかな。
思いつきで書いてみたが、伏せ字の機能論*2って結構面白そう。匿名表記(A子、B氏、C県D市など)との関係も絡めていくと広がる気がする。そして収拾がつかなくなる気もする。