難解な日本語4
で、上の記事を踏まえて、今度は『リアル鬼ごっこ』の語彙力低下を嘆いてみましょう(笑。
今日の一つ目。
皆の祈りも虚しく、王様の悪しき想像力は皮肉にも機能してしまうのである。
(『リアル鬼ごっこ』(幻冬舎文庫), p.23)
国王が“やる”と言ったら“やる”のだ。例外はない。皮肉なことだが、翼は、いや全国の佐藤さんは、自分の名字を恨むしかないのだ。
(同, p.43)
ここでの「皮肉」の使い方が微妙に間違ってるような気がするのは俺だけ?*1 「皮肉」は「予想や期待に反し、思い通りにいかないこと」を表す。上例で、「王様の悪しき想像力」が機能するのは王様の性格から容易に予想できることだし、「自分の名字を恨む」ことに予想外も期待外れもないと思う*2。
「読者の期待に反して」とかだったら解釈できなくもないが、なんか変。
二つ目も微妙に引っかかる例。
翼の足の速さにどよめく人たちもいた。
(同, p.93)
「どよめく」のは集団であって個人ではない。「*太郎はどよめいた」が不自然で、「観客はどよめいた」が自然であることからそれが分かる。上の例からは、「どよめく人が複数存在した」という解釈が可能となる(つまり複数の個人がどよめいている解釈ができる)ため、引っかかってしまう。もちろん「人たち」=「集団」とすれば問題なさそうだけど、俺の内省探知ゴーグル*3がささやくのだよ、コレは変だ、と。
三つ目。
初めての場所だけに右も左も分からず、さすがに緊張の色は隠せなかった。
(同, p.123)
ベタな言い回しをするんだったら、「不安の色は隠せなかった」だろうなあ。
今日の最後。
洋はそこから最後の力を振り絞り、踏ん張ったあげく……上りきった。
(同, p.171)
「あげく」の用法が引っかかる。「あげく」は「いろいろやってみた結果。結局のところ」という意味で用いられる。が、エキサイト国語辞典の用例にもあるとおり、どちらかといえば、「AしたあげくB」の後件Bは文脈的にマイナス評価の事態に偏りやすい*4。上例の、踏ん張った→上った、は単なる事態の連続であって、そこにマイナスはおろかプラスの評価も無い。こういうところで「あげく」って使いにくいと思うのだ。